海苔に命を懸けた男の一代記
わが海苔人生
業界は今こそ「平成維新」を!
第一線を退いた私のような年寄りが見ていても歯痒い思いをする。私の店もそうだが、海苔業界も世帯交替が進んでいる。しかし、やっていることは一向に今までと変わってはいない。変えたいのだろうが出来ないのだ。みんな惰性でやっているようなものだ。私は倅にもいうのだ。「おやじのやっていた頃とは時代が変わっているのだ」と。お前たちと同じレベルのものが集まって巧い方法を考え、それを実行したら良いではないか、というのだが、なかなかそうはいかないらしい。倅の話を聞いたり、海苔速報を読んだりしても、どうもみんな自分のことしか考えていないように思う。
この辺で、海苔業界は問屋も加工屋も裸になって一致団結すべきだ。生産者が少しも協力してくれないなど、イタチごっこのようなことはいわずに、小異を捨て本気で改革に取り組まなければならない時期に来ていると思う。それなのに、見ているとどうも生販ともに指導力に欠けている、強力な指導者がいない、というような感じを受ける。自分のことをいっては何だが、私は若い頃、陣頭に立って連合会の結成に全力を傾けて努力したし、韓国海苔組合結成にも精一杯努めて理事長になったものだ。あれこれ考えると、今は指導者がいないとつくづく思う。
自分のことを引き合いに出していうのも恐縮だが、どうも元気の良い指導者が見当たらない。若かったからこそ出来たと思うのだが、今の世代の人たちは、もう当時の私くらいの年齢になっているのだから、もっとしっかりリーダーシップを発揮して欲しいと思う。西郷隆盛にしても坂本龍馬にしても、江戸幕府のようなことをやっていたら、日本は滅びてしまうという信念の下に奔走し、命懸けで明治維新を成功させたではないか。成る程、海苔業界には伝統がある。しかし、今の時代、伝統だけではダメなのだ。海苔業界には「平成維新」が必要なのだ。私はこれを強く叫びたい。
誰かがやってくれるだろう、ではいけないのだ。若い連中が心から結束して「自分たちが海苔業界を革新するんだ、魅力ある業界にするんだ、子供たちが喜んで後を継いでくれる商売にするんだ」という気概を持って改革に取り組んで欲しい。そうしないと、このままでは、海苔業界は消滅し兼ねないと思う。海苔問屋業界は寡占化状態になっても良いと私は思っている。とにかくやって見ろといっているのだ。このまま行くとズルズルと共倒れになってしまうような気がしてならない。とにかく、魅力のない商売ではダメだ。その海苔を扱っているものが貧乏しているなんてお話にならない。
では、商売の魅力とは一体何なのだろうか。ズバリいって儲けることではないのだろうか。損していて魅力などあるわけがない。私は、戦後、韓国海苔輸入で大損したことがあるけれど、その後は着実に儲けて大損を完全に取り返した。「図々しい宮永」などといわれたが……。とにかく漁連も問屋も強力な指導者が今ほど望まれる時はないと思う。それほど海苔産業は危機にあるのだ。
漁連については、水産庁の行政指導も生温い。もっと徹底的に指導して、本当に漁民のためになるような指導と施策を打ち出さなければいけない。私は、いつも口を酸っぱくていうのだが、なかなかはっきりした返事をしない。うっかりしたことをいって、左遷でもされたらいけない、とでもいうのだろうが、まさにお役人根性だと思う。
まあ、長い間、いいたいことをいわせてもらったが、私は、海苔業界は今こそ「平成維新」を成し遂げて、後生に伝えられる産業にしなければならないという一心からなのである。(おわり)